電源回路

 

おもちゃを含めて電子機器は主体となっている電子回路に直流の電力を供給する必要があります。

 おもちゃでは殆どの場合、電池がこの役を担っています。ただ一般的に電子回路を持つ機器では商用の電源、つまり100Vの交流電源から必要な電圧の直流に変換して電力源としています。

 また一つの機器で複数の電圧を必要とする場合もあります。交流は電圧の変更は比較的簡単です。トランスを使えばその巻き数比で入力された電圧を上げ下げして必要な電圧を出力することが出来ます。

 直流の場合は少し厄介でトランスでの電圧の上げ下げはできませんので、一旦交流化してトランスを使って所望の電圧を得、その後再び直流に戻すと言うようなことが必要になります。

 インバータとかコンバータと言う言葉も出てきます。簡単に言えばインバータは直流→交流と変化させて直流の出力を得るものでコンバータは交流から直流の出力を得るものです。

 おもちゃの世界ではインバータはよく見掛けます。

 ここでは、電源回路がこのような要求に対してどのように応えているかを見ていきます。

 電源回路は通常、電圧変換部、整流部、平滑部、場合によって安定化部などで構成されています。

1.電圧変換回路

 1.1 交流入力交流出力電源(AC to AC

 AC-AC電圧コンバータ(交流変圧器・交流電圧変換器)、変成器(へんせいき)、トランスとも呼ばれます。1次側と2次側の巻き数比で電圧の上げ下げができます。2次側を複数巻くこともできます。

1.2 交流入力直流出力電源(AC to DC

 交流を入力して直流を得る回路で、一般的に交流から直流を得るために用いられます。整流器、AC-DCコンバータ、AC-DC変換器、直流安定化電源などと呼ばれ、ACアダプタもこれに含まれます。

 電圧の変更には1.1で示したように主としてトランスが用いられます。

1.3 直流入力直流出力電源(DC to DC

読んで字のごとく直流の入力源から異なる電圧の直流の出力を得るもので、DC-DCコンバータ(直流・直流変換器)とも呼ばれます。

    スイッチング制御電源

 入力として与えられる直流はそのままでは電圧を上げることができませんので、電圧を変換するために一旦、交流に変換し、電圧変換を行った後に再度直流に変換しています。

 この交流に変換する時にスイッチング動作を行わせ交流を作り出しています。昇圧、降圧共に変換することが可能です。作り出された交流は商用に比べて高い周波数なので商用周波数に比べて高い効率を確保することが出来ます。パソコンなどの電源は全てこのタイプです。

   リニアレギュレータ電源

  入力に与えられた直流を回路に挿入された定電圧回路により求められる電圧に変換するものです。降圧のみが可能です。主たる電流に対して定電圧回路が直列に挿入されるものを直列形定電圧電源(シリーズレギュレータ)と言い、並列に接続されるタイプを並列形定電圧電源(シャントレギュレータ)と言います。降圧分が全て損失になるため、全体の効率はあまり良くありませんがリップル(脈動)を極めて低く抑えることが出来るため負荷にオーディオ回路を接続する場合にはよく利用されます。

 

1.4 直流入力交流出力電源(DC to AC

 直流を入力して交流電力を得ようとするもので、インバータ(逆変換器)と呼ばれます。屋外で商用電源を利用する機器を使用する場合にはインバータが用いられることが多くあります。

 

2.整流回路

まず整流回路は交流から直流の電力を取り出すことが目的で、そのため、交流成分は極力排除するように考えられています。また、電力を取り出すため、使用する部品も大きな電力を扱えるものを使っています。基本的には商用周波数(50Hzまたは60Hz)がその対象となります。

 交流を直流に変換することが目的なので、商用の100V電源を使用しないおもちゃの世界では整流回路はあまり見かけないのですが、強いて言えば充電器などに組み込まれています。

 

2.1 整流回路の原理

ダイオードはアノードの電位がカソードの電位より高くなった時にアノードからカソードの向けてしか電流を流さないと言う性質を利用して、交流の正のサイクルのみを通します。

 

交流の波形は下図の通りです。

橙色の破線(0V)を中心として赤色の線が上下に振れています。上の部分がプラス、下の部分がマイナスとなります。

次に、整流回路(半波整流)を通過した後の波形(緑色)は0Vの線の上の部分だけがあり、マイナスの部分は0Vになっています。

 

ダイオード通過後の波形(半波整流)

この様な波形を持つ状態を脈流と言います。当然のことながら、一定の電圧を保つことができませんので、この状態では直流の電源としては使えません。整流回路の後に平滑回路と言うものを挿入し、直流に限りなく近づけます。

正の半サイクルでは負荷に対して電力を供給すると共に平滑回路のコンデンサにも電荷が蓄えられていきます。蓄えられた電荷は次の負の半サイクルの時に負荷に対して放電されるため図の1点鎖線のように徐々に低下していきます。次のサイクルが来ると再び充電されるのでまた電荷が溜まり放電される前の状態に近くなります。これが繰り返されて、全体としては脈動部分を含みますが、平滑回路の前と後では後の方がより直流に近くなります。放電時の電圧の低下の具合は平滑回路のコンデンサの容量と負荷のインピーダンスによって決まります。平滑の程度が不足する場合には2段、3段と重ねることにより、より直流に近づけることになります。

 

平滑回路通過後の波形(1点鎖線)

ダイオード通過後の波形で分かるように負の半サイクルは全く利用されていませんので効率的には低いレベルにとどまります。この効率を高めるために全波整流と言う方式が用いられます。

 

ダイオード通過後の波形(全波整流)

負の半サイクルも利用することによって上図のような波形が得られます。それを平滑回路を通すと下の図のような波形が得られます。

 

平滑回路通過後の波形(1点鎖線)

明らかに効率が上昇していることが分かります。

 

2.2 整流回路の構成

 

2.2.1 単相半波整流回路

 交流の電力源にダイオードを通し、平滑回路を通して負荷に電力を供給します。効率は良くないのですが極めて簡単に回路を構成できるのでよく使われます。

2.2.2 単相全波整流回路(ブリッジ整流回路)

 ダイオードを図の様に接続した回路です。正の半サイクルも、負の半サイクルも使用できるので効率は高くなります。ダイオードが4本必要です。半導体ダイオードが手軽に使えるようになりこの回路が普及しました。

ブリッジ回路における電流の流れは右の図のようになります。正の半サイクルが赤→、負の半サイクルが青→になります。

 

2.2.3 二相全波整流回路

 真空管の時代にはダイオードを4個組み合わせるブリッジ回路は製作が大変でした。そのため、電力供給源となるトランスの巻き線を増やし、センタータップ(巻き線中点)を使って全波整流を行う二相全波整流方式が一般的に使われました。トランスの巻き線が2倍必要になりますが、整流素子の真空管は一本で済むため容易に実現できたのです。下の図を見てわかる通り単層半波整流方式を上下に重ねた形になっていますのでリップル(脈動)の除去には有利ですが効率という点では単層半波整流方式と変わりがありません。

整流しながら昇圧(電圧を高める)することもあります。

 

2.2.4 倍電圧整流回路

 半波整流回路の2倍の出力電圧を得ることが出来ます。但し取り出すことのできる電流は半分になります。

2.2.5 三倍電圧整流回路

 半波整流回路の3倍の出力電圧を得ることが出来ます。但し取り出すことのできる電流は1/3になります。

2.2.6 四倍電圧整流回路

半波整流回路の4倍の出力電圧を得ることが出来ます。但し取り出すことのできる電流は1/4になります。

2.2.7 コッククロフト・ウォルトン回路

簡単に高電圧を取り出すことのできる回路として有名です。ダイオードとコンデンサを積み重ねていくことで望みの倍数の電圧を出力として得ることが出来ます。使用する部品も特に高耐圧のものを必要としません。蛇足ですが東大の物理の入試問題としても出題されました。

 図ではダイオードを9個使っていますので、9倍圧、入力が100Vだとすれば出力は900Vを得ることが出来ます。(損失を無視すれば)但し、電流は1段のものに比べ1/9になります。

 

2.2.8 チャージ・ポンプ回路

 スイッチング電源に使われる回路でコンデンサとスイッチを組み合わせることによって電圧を上昇させるための電子回路です。

 

スイッチトキャパシタ」の原理を応用したもので、複数のコンデンサの接続状態をスイッチなどを用いて切り替えることにより、入力電圧より高い電圧を出力したり、入力と逆の極性の電圧を出力することができます。

 

例えば2つのコンデンサを並列に接続した状態で電荷を蓄えた後、トランジスタやダイオードで接続を直列に切り替えることによって2倍の電圧を得ることができ、コンデンサの増数によって任意倍率の電圧を得ることができます。コンデンサの接続を逆にすると逆極性の電圧を得ることができます。

 コッククロフト・ウォルトン回路はスイッチングをダイオードのみで実現させています。

 

3 平滑回路

 整流回路の出力は基本的には脈流ですのでプラス側、或いはマイナス側にだけ電圧が変動します。この変動を脈動(リップル)と言います。日本では交流は50Hz又は60Hzの周波数を持っていますので、脈動も50或いは60Hzの周波数成分を持っています。音声信号増幅回路にリップルが混入すると「ブーン」という人間が聞くことのできる低い音となってスピーカーなどから出できます。この脈動を抑制してできるだけ直流に近くするために平滑回路が用いられます。平滑回路は基本的にはコンデンサとコイル或いは抵抗で構成されます。

図の回路はコンデンサと抵抗を組み合わせたものでローパス・フィルタと呼ばれるものです。ある特定の周波数以下しか通過させません。この特定の周波数を20Hzとか30Hzに設定すれば先ほどのリップルの主成分である50Hzとか60Hzは通過できませんので出力にあらわれるリップルはごく少なくなるという理屈です。ただ、電源部における平滑回路は電力を通過させないといけないため、抵抗を使うと大きな電力損失が生じます。

このため電力回路では抵抗ではなくコイルを使います。コイルはそこに流れる電流が変化することを嫌うという性質があります。さらにコイルにはX=2πfLというインピーダンスをもっていますしコイル自体の抵抗は極めて低いので、直流分には障害とならないが交流分には大きな抵抗となって交流分の除去には有効です。更にリップルを低く抑えるためにπ型の平滑回路を使用することも有ります。

最近では平滑用としてすごく大容量の電解コンデンサを使用することが出来るようになったため、何段にも平滑回路を重ねる必要はなくなりましたが、π型の整流器側のコンデンサにあまり大容量のコンデンサを用いると整流器に過大な負担を与える可能性があり、注意が必要です。

 

4 電圧安定化回路

 電源回路の容量が十分に大きければ電源回路から取り出す電流が多少増減しても出力電圧が変化することを押さえることが出来ますが、実際には取り出す電流が大きくなれば出力電圧は低下してしまいます。

 このため、電源回路の内部に基準電圧を設けて、この基準電圧に対してどの位の差を保つかを決め、取り出し電流の多少にかかわらず出力電圧を一定に保つ回路を電圧安定化回路といいます。パソコンをはじめとして低電圧、大電流を要求される場合には殆どの場合、定電圧回路が内蔵されています。

 定電圧回路には電源として供給する電流のラインに直列に制御器を入れるシリーズ・レギュレータと並列に制御器を入れるシャント・レギュレータがあります。

電源回路は電子回路を動作させるうえで極めて重要な縁の下の力持ちと言えます。