おもちゃの電子回路の実際
■はじめに
おもちゃに使用されている電子回路を理解するには、やはり実際に使用されているものを研究することが最も手っ取り早いと思います。
最近のおもちゃの電子回路は IC(Integrated Circuits)化されており、その中身は分かりませんが殆どがマイクロコンピュータとなっているようです。
すなわちこれは ROM(Read Only Memory)化されたプログラムによって動いているのです。ですからおもちゃドクターとしては手も足も出せませんが製品としては単純化されており、ダイオードやトランジスター回路の基本さえ知っておれば簡単に理解できます。
さて、「やわらかトーマス」を使いトランジスター等の電子回路について研究してみたいと思います。
「やわらかトーマス」の電子回路は非常にシンプルでしかも同様な機能を持った幼児用玩具の基本的なものをすべて持っています。研究材料としては最も適していると思います。
■回路図の作成
下図の写真が部品を外した状態の電子回路基板です。
上が部品側、下がプリント配線側です。実際の裏側を見るとこれと左右が反転していますので注意してください。
部品側には装てんする部材が印刷されているので分かりやすいと思います。
下の図は回路図を作成するための作業の途中過程で、配線側を見ながらパッド(部品を取り付けるための穴のある部分)を基準にしながら配線を書き写します。
次にパッド間に部品記号や分かりやすい図形を使用して部品を書き写します。
ここまでが結構大変な作業ですが、これがありますと問題点など見つけるのに大変助かります。
ここからは、必要な部分だけを必要に応じて回路図に書き換え、問題点の検討や対策などを立てるのです。
今回は全体の働きを考えますので、すべてを回路図にします。
あまり綺麗にはまとまりませんでしたが、下図のようになります。
IC のピン番号は適当で意味がありませんので気にしないでください。
また、IC の端子で LED というのがありますが、私の勝手な創造です。しかも、実際にはプログラムされておらず機能していませんでした。
スイッチの SW1 が Thomas 側で実際に配線されている側です。
■部品の説明
先にも書きましたがこの回路は基本的なものをすべて持っていますので、簡単にそれぞれの部品の働きを説明しておきます。
V:単3型乾電池2本 3V で動作します。電源用のスイッチは付いていませんので電池が装てんされていると僅かですが IC により電流が消費されていると思います。
ここからのプラス側はスピーカーとモーターの負荷回路に直接配線
されています。
マイナス側がグランドとなっています。
C1:100uF6.3V の電解コンデンサーです。負荷の変動による電圧の急激な変化をカバーします。コンデンサーは電気を蓄えることができるのでそれを利用しています。
C2:0.1uF のコンデンサー こちらは交流分の電気を通し易いという性
質を利用しています。
スピーカーとかモーターからは高い周波数成分のノイズが発生しますので、それらを速やかにアースに逃しています。
R5:100Ωの抵抗器です。IC 回路にノイズの少ない安定した電圧を加え
るためあります。
もちろんここでの電圧降下はありますが IC 回路の電流が少ないので電圧降下分も僅かです。
C5:100uF6.3V の電解コンデンサー、C1 と同じ機能です。IC 回路の急激な電圧変化をカバーしています。
コンピュータ回路の電気信号は主に方形波が使用されています。いわゆるデジタル信号ですから高周波成分が多く含まれており電圧変化が急激ですし、ノイズなども発生し易いのです。
R1:110KΩの抵抗器です。IC の発振回路に使用されています、通常百 KΩから MΩ(メガ:1000KΩ)単位の抵抗が使用されています。正確で安定なクロックを必要とする場合は水晶振動子が使われることもあります
振動子に流れ込む電流を制御し、負性抵抗や励振レベルの調整、振動子の異常発振の防止や周波数変動を抑制する。
参考:「OSC」発振回路。オシレーターともいう。
R2,C3:MCLRに接続されている51KΩの抵抗と 0.1uF のコンデンサーです。これらは通常ペアで使用されており、電子回路の積分回路と称してよく使われています。
一定の時間を作り出す場合に抵抗とコンデンサーの値を適当に変えて目的の時間を作ります。この場合は電源をオン(電池を挿入)した後のコンピュータを初期状態にするために使用されています。
マイコン回路には必ずリセット回路が必要です。CPUが動作状態のまま電源電圧が動作限界値を往復すると、CPUは暴走を起こします。従って電源をオンする時には電源電圧が正常に立ち上がり更に周辺回路が安定するまでCPUをリセット状態にしておかなければなりません。又電源オフ時には瞬時にCPUや周辺ロジックを初期状態に戻す必要があります。これらの動作を実現するのがリセット回路です。
SW:モーメンタリータイプのスイッチが使われています。鍵盤があるタイプのおもちゃなどでよく使われているゴム製のパッドタイプのスイッチでも機能します。抵抗値が 50KΩ程度までならうまく働きました。光や音などもスイッチの応用例として考えられます。
IC:このプリント基板のメイン部品です。WC029AP と基板上に書いてありますがこれが IC の型番でしょうか?よくは分かりません。
Vcc は平滑された 3V の電源プラス側に接続します。GND は電源マイナス側に接続します。
OSC は R1 の説明でも書きましたが、IC 内部で使用するクロック周波数を決めるための端子です。
この端子はハイインピーダンス(インピーダンスとは交流分を含めた抵抗のことです)ですので指などで触れると異常動作をすることがあります。
MCLR は IC(コンピュータ)を初期化するための端子で、電圧が 0V に近い Low の状態のとき有効となります。したがって電源を入れた後電圧が安定するまでのしばらくの間 Low が続き IC をリセット状態にします。
SW1 と SW2 は電圧の+3V 側に近い Hi の状態が有効となります。ここでは SW2 は使用されていませんが SW1 と同じ動作をするようにプログラムされているようです。
以上が入力端子です。次からは出力端子の説明になります。
MELODY 端子は 3 種類の電子音によるメロディー信号を出力します。IC が休止時は 0V(Low)の状態です。SW が押されて動作状態になると矩形波によるメロディー信号が出力されます。1回のSW オンで同じメロディーが 3 回出力されるようにプログラムされています。
動作中に SW が押されると即休止状態に入ります。
MOTOR 端子は休止時には Low となっており、動作時には Hi
の状態が続きます。
LED 端子は使用されていません。常にLow 状態です。(残念で
す)
R3:IC のメロディー出力端子の負荷抵抗で、出来るだけ効率よく音に変えるため整合を取っている抵抗です。実際には C4 と Q1 の入力抵抗の並列インピーダンスとなります。
C4:0.1uF のコンデンサーです。IC で作られるメロディーの信号は矩形波が元になっています。矩形波には周波数の非常に高い成分が含まれていますので、この高調波を取り除き可聴周波数成分に近いものだけを取り出すためのフィルターの働きをしています。
Q1:S8050D NPN 型のトランジスターです。この S8050 は中国製で、多くのおもちゃで使用されています。私の感じでは結構丈夫なようです、と言うかトランジスターの規格的に見て余裕のあるものです。
IC から出力されたメロディー信号を電力増幅してスピーカーにて音として出せるようにしています。
SP:どなたも御存知のいわゆるダイナミックスピーカーです。音質は
結構よいタイプです。
R4:820Ωの抵抗器です。Q2 トランジスターに適当な電流を流すよう制限をする働きをしています。
Q2:Q1 と同様の S8050D NPN 型トランジスターです。IC からの信号によってモーターに駆動電流を流す働きをしています。
M:1.5V~3.0V 程度で使用する DC モーターです。このおもちゃの場合はシャフトの両端に重石をつけて振動モーターとして使用しています。
C6:0.1uF のコンデンサーです。DC モーターはブラシと整流子により電力を供給するため回転時にスパーク(火花)が発生し、これがノイズとなって電子回路に影響を与えます。このスパークを少なくするためにこのコンデンサーをモーターの端子間に直接接続します。
コンデンサーの容量はモーターの制御方法で変わってきますが、このおもちゃの場合は大き目のものを使用しています。
以上がこのおもちゃで使用されている電子部品の種類と大まかな働きです。
このおもちゃにはメインスイッチがありません。電池がセットしてあれば何時でも動ける状態となっています。
従って IC には僅かですが停止時でも電流が流れています。長時間遊ばないときなどは電池を取り外しておかないと電池関係のトラブルの元となります。
最近この形式のおもちゃを多く見かけます。使用者に注意を促すことが必要だと思います。