電圧と電流

 

電気が流れるとはどういうことなのでしょうか。

最初にミクロの世界で考えてみます。

小難しい話ですが、すべての物質は原子、或いは原子が結合した分子と言う形態で存在しています。

 固体の場合はこれら原子、分子が結晶構造で繋がり形態を安定させています。

 原子は陽子と電子、中性子で構成されていますが、電気の世界で重要なのは電子です。電子はマイナスの電荷をもつ粒子でこれが移動すると電気が流れるということになります。原子の中では陽子の数と電子の数が等しくお互いに結合して中性を保っています。

 電子は基本的にあまり自由に動けないのですが、なかに結合の弱い電子が存在し外部からのストレスでその位置を変えるものがあります。これを自由電子と言います。この自由電子が電気が流れる主役になります。

 自由電子の数が多いものほど電気を良く通す、すなわち良導体、少ないものほど電気を通しにくい、通さない、すなわち不良導体と言うことになります。測定できる限界を超えて電気を通しにくいものは不導体(絶縁体)と呼ばれますが全く通さないものはありません。ちなみに炭素は良導体ですが炭素の完全な結晶であるダイアモンドは絶縁体です。ダイアモンドは炭素原子の4本の腕が他の炭素原子と完全に結合していますので自由電子がないためです。

 この考え方は異種の原子と原子、分子と分子の間においても有効で、現在半導体としてよく知られるゲルマニウムやシリコンは単結晶に錫、アンチモンと言った異種の元素を混合して無理やり余剰電子、電子不足(正孔)の状態を作り出しこれを利用しています。

 この辺りからミクロの世界から離れやや大きい視野で電気を見ていきます。

電気が流れるというのは水が流れるという状態によく似ています。ご存じのとおり水は高いところから低いところに流れます。水が流れる場合には水流が生じます。

水を湛えたダムを想像してください。ダムの水面の高さが電気の世界では電位の高さになります。

ダムの底では水面までの水位に応じた圧力が掛かっていますので大きなエネルギーを持っていることになります。放水をすればこのエネルギーが利用できることになります。

電気の世界では電位の高いところから電位の低いところに電気が流れます。電位の高いところが電圧の高いところで、電位の低いところが電圧の低いところです。電荷が流れる状態が電流です。常にこのイメージを持っていて下さい。

電気の世界で最初に出てくるのは「電圧」と「電流」です。

 

(1)電圧

電圧は、ある「場所」が「基準」にたいしてどの位のエネルギーを持っているか、持つかと言うことです。ですから必ず「基準」があります。

おもちゃの世界では殆どの場合エネルギー源が電池になりますから、電池のマイナス極を基準とすれば、反対側のプラス極がこの基準に対してどの位のエネルギー(電位)を持つかということです。逆にプラス極を基準にすればマイナス極がこの基準に対してどの位のエネルギーを持つかということになります。このエネルギーの差を「電位差(電圧)」と言い、差の単位が「V:ボルト」です。

家庭用電気機器、電子機器の場合は基準がアース(グランド、地面)で、回路の中のあるポイントがこれに対してどのぐらいのエネルギーを持つかということになります。基準ポイントは回路構成で変わりますので「今何をしているか」を把握しておく必要があります。PNPトランジスタを使用した電気回路ではプラス側が基準になり、電位は全てマイナス側で取り扱われます。

ちなみに家庭のコンセントは必ず片側が地面に接続されていて「0V」、そしてもう一方が「100V」です。つまり、コンセントの2つの穴は「感電する側」と「感電しない側」に分かれます。検電ドライバというツールを使えば感電する側を容易に判断できます。

 

片側が必ず地面に接続されているのは家庭用電気機器の安全性を確保するためで法律で規定されています。このようになっていないとコンセントに接続されている2本の線の間の電圧は確かに100Vですが、地面から見た場合1000Vと1100Vかも知れません。一般的に家庭用電力は消費末端のすぐ傍まで3300Vで供給され電柱の上に見かけることのできる「トランス」で100Vに降圧されて家庭に供給されています。もし、このトランスや付近の配線に絶縁不良が生じて家庭用引き込み線に漏電すると地面から見て3300V又はそれに近い電圧が印加された状態で家庭に供給されることになります。家庭用電気機器は通常の使用では十分な絶縁耐力を持って製造されていますが3300Vに耐えるほどの耐力はありませんので機器の内部で絶縁破壊や漏電が生じて人間が感電したり、発火したりすることは簡単に予想されるところです。実際、このような事例が報告されています。

 

嵐などで垂れ下がった電線に人間が触れると感電して命にかかわる場合もありますが、鳥が電線に止まっても感電しないのはこの電位差がどのようになっているかを理解すれば容易に説明することが出来ます。

このアースの概念は極めて重要ですので確実に押さえておいて下さい。

どの位のエネルギーを持つかという話ですから静的にも動的にも測定することができます。回路の外部から測定します。

記号は通常「E」を使い、「Exx」と表してxxのサフィックスでどの場所の電圧かを意味づけることがあります。

 

(2)電流

電流とは電荷が水と同じように電位の高いほうから電位の低いほうに流れることによって生じます。(この説明は、正確には間違い。電子はマイナスの電荷をもっているので、電子自体はマイナスからプラスに移動します。半導体の動作を理解するときはこの動きが重要になります。)

単位は「A:アンペア」です。電流は電荷がどのくらい流れているかという動的な話なので、流れの中に入らないと測ることが出来ません。つまり回路に流れている電流を図るためには回路を切断し、そこに測定器を入れて測ることになります。従って回路の外部から電流を測ることはできません。(この説明も厳密な意味では間違い。回路を流れている電流が大きい場合は回路を切って測ることが危険な場合もあるので、回路を挟むだけ、或いは傍に近づけるだけで測定できる計器もある。)

記号は「I」で電圧と同様にサフィックスで何処の(どの)電流かを表します。

 

(3)直流

回路を流れる電気が時間によって大きさが変化しても流れる方向(正負)が変化しない電流です。

同様に、時間によって方向が変化しない電圧を直流電圧と言います。狭義には、方向だけでなく大きさも変化しない電流、電圧のことを指します。

電池から取り出される電気が代表的なものです。

流れる方向や電圧が変化しないので扱いが容易で一般的な電気回路、電子回路で使用される電気は主として直流が用いられます。

左図の中段「脈流」は時間とともに電圧が変化していますが、プラス側だけの変化ですので交流成分を持った直流になります。さらに下段の「正弦波、余弦波」は直流回路に正弦波或いは余弦波を信号として加えた場合の状態です。これも電圧がマイナス側まで振れていないので電流の流れる方向が逆になることはなく直流といえます。

ただし、逆に電圧を変える、流れる方向を変えることは極めて難しく、もし変えたい場合は電源そのものを取り換える必要が出てきます。

(4)交流

時間とともに周期的に向きが変化する電流(交流電流)を示す言葉であり、「交番電流」の略です。また、同様に時間とともに周期的に大きさとその正負が変化する電圧を交流電圧と言いますが、電流・電圧の区別をせずに交流と呼ぶこともあります。

左図で分かるように中心となるオレンジ色の線が0Vであり正の領域と負の領域を行き来しています。

交流の代表的な波形正弦波であり、狭義の交流は正弦波交流(sinusoidal alternating current)を指しますが、広義には周期的に大きさと向きが変化するものであれば正弦波に限らない波形のものも含みます。正弦波以外の交流は非正弦波交流(non-sinusoidal alternating current)といい、矩形波交流や三角波交流などがあります。

ただし、電源電圧がこのように変動すれば電気回路、電子回路の動作は不確定となり交流を直接、回路の電源として利用することはできません。しかし、電流がこのような形で変化すると周辺の磁界が同じように変化するためトランスを利用して容易に電圧の上下が出来るため送電や整流することを前提として必要な電圧を得ることができるため、回路の電源としても利用されます。

 

(5)静電気

導体の中を電気が流れることについてはご理解頂けたでしょうか。電気が流れるということは電荷が移動していることです。自由電子によって電荷が移動しているのです。では自由電子があまり存在しない場合はどうなるのでしょうか。絶縁体でも電荷は持つことが出来ます。ただ、自由電子が不足しているためにこの電荷は移動できません。この移動できない電荷を静電気と呼びます。自由電子が沢山あればわずかな電位差でも電荷は移動し、放電しますので電位が上昇することはありません。

ところが移動できない電荷はそこに溜まっているだけで電位だけが上昇することになります。絶縁体は非常に高い耐圧を持ちますがいずれは耐圧を超え放電が始まります。

静電気のお化けは「雷」です。空気も電荷を貯めこみますがその絶縁耐力は空気1mm当り3000Vです。これを超えて貯め込まれた電荷は「雷」となって放電が開始されます。この時に空気の絶縁を破る衝撃が雷鳴で絶縁を破って放電されるエネルギーが光になったものが雷光(いなびかり)です。

静電気は残念ながら人間が人為的に制御して利用することは今のところ不可能です。自然界の貴重なエネルギーですので残念です。

 

最も身近な静電気は2種類の誘電体をお互いに摩擦することによって生じさせることが出来ます。

誘電体をこすり合わせたときに生じる静電気の符号は、物体の組み合わせによってきまる。組み合わせたときに正の電荷を生じるものを右に、負の電荷を生じるものを左になるように並べると、誘電体を一直線上に並べることができ、この配列のことを帯電列と呼ぶ。帯電の極性は帯電列によって決まり、異なる物質間の帯電では帯電列が離れているほど高くなる。

プラスティックの下敷きをセーターに挟んでこすることは誰でも一度はやったことがあると思います。

 

上記の帯電列によれば「ウール」と「合成樹脂」になりますので下敷き側にマイナスの電荷が蓄えられるということになります。静電気の厄介なところは電気は常に「中性になりたがる」ところにありマイナスの電荷を保持した下敷きを頭に近づけるとそれまで電荷を持っていなかった頭髪にプラスの電荷が誘起されます。これを静電誘導といいます。

 

同様に人間の皮膚とアクリルの下着では人間の皮膚にプラス、下着にマイナスの電荷が蓄えられます。車の取っ手や玄関のドアノブ等で「バチッ」と放電するのも同じ理由によります。

 

おもちゃで積極的に静電気を利用しているものはありませんが、簡単に遊ぶことが出来ることでは「遊具」と言えないこともありません。

飛行機も結構「雷」には悩まされています。飛行機は空気の中を高速で飛んでいますので、その表面は常に空気や空中のちりと摩擦していて静電気を帯電しています。「雷」が飛行機に落ちる(落雷)と飛行機の中で使われている電気に影響を及ぼし最悪の場合は操縦が出来なくなったり或いは飛行機が破損したり、火事になったりします。このような事態を避けるために飛行機にはスタティックディスチャージャー(放電索)と言うものが取り付けられています。

飛行機の形によっても違いますが大体は翼の中央部から先端に向けて数本の細い棒みたいなものを見ることが出来ます。これが飛行機の避雷針(スタティックディスチャージャー:放電索)です。機体に静電気がたまるとこの放電索の先端から放電して大事に至らないようにしています。放電は雷や電気をショートさせた時のような瞬間的な放電ではなく、放電索が大電流を一気に流さないような仕組みになっているため、やや紫がかったり、ピンクっぽくて青白い色の放電を割合に長い時間しますので運が良ければ(?)窓から見ることが出来るかもしれません。

 ついでに避雷針についても言わせてもらうと避雷針の先端は金メッキされていて、必ず地面に繋がっていています。文字の感じから雷を避けるものだと認識されますが必ずしもそういう意味ではありません。避雷針の相手方は主に雲になります。雲は状況によってプラスの電荷もマイナスの電荷も持ちます。

地面は中性(プラスにもマイナスにも帯電していないことにして考えます。)ですから、プラスに帯電した雲が近寄ってくると避雷針の先端には静電誘導によってマイナスの電荷が集まってきます。そして限界以上に電荷が溜まると弱いながらも放電が始まります。放電が始まるとその周辺は電荷が打ち消されていきます。

こういう原理で避雷針があるところの周辺には雷が落ちないのです。ただ雲は空気の移動、つまり風によって動きますので雲の移動が速くて雲と地面の電位差が急激に高まると放電が間に合わなくなり避雷針に落雷します。ですから避雷針があれば大丈夫とは考えないで下さい。このように危険な場合もありますから避雷針はその構造(大きさ、太さ、設置線、設置電極など)が法律で規定されています。

勝手に自分で作ったり、設置したりするのは止めましょう。

 

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