6.スイッチ

 

回路に電流を流す、切る、信号を繋ぐ、切ると言った場合に用いられるのがスイッチです。取り扱う電圧、電流によって様々なものがあります。構造や動作によって以下のような様々なものがあります。

 

おもちゃでは比較的接触不良の原因となり易いデバイスですが、代替品が入手できないなど特別な場合を除いて決してスイッチ本体を修理してはいけません。また「接点復活剤」も殆どの場合、更なる故障を誘発する原因となりますので使用することは厳禁です。

 

 

(1)スイッチの種類

・タクティールスイッチ (タクトスイッチはアルプス電気の登録商標)軽く押して使用するスイッチです。通常は「OFF」状態にあって押した時だけ「ON」の「モーメンタリー」動作をする「ノーマリー・OFF」と通常は「ON」状態にあって、押した時だけ「OFF」になる「ノーマリー・ON」の2つのタイプがあります。オルタネー  ト動作のものはありま             せん。多回路に使用できるものはあまり見か             けません。オルタネー  ト動作をする押釦スイッチはあります。

・トグルスイッチ(スナップスイッチ)

パチン・パチンとスナップするように操作するスイッチです。この動作を「トグル」と言うため、トグルスイッチと言うのが一般的の様ですがスナップスイッチとも言います。動作としては後述しますが「オルタネート」動作が一般的ですが、「跳ね返り」と言って「モーメンタリー」動作をするものもあります。

・押しボタンスイッチ

プッシュスイッチとも呼ばれ押し込んで回路を切り替えるタイプのスイッチです。通常はタクティールスイッチと同様のモーメンタリー動作をしますが、このタイプのスイッチにはプッシュロックスイッチと言って押し込むとロックされて回路を切り替えた状態が維持されるタイプ(オルタネート動作)のものもあります。また、多回路を切り替えられるものや、連装スイッチと言って複数のスイッチを切り替えて使うことできるものもあります。

・スライドスイッチ

 

操作レバーを横に動かして(スライドさせて)回路を切り替えるスイッチです。

コストを求められる場合に多用される傾向があります。おもちゃでは一般的に使われます。逆に信頼性を求められる機器ではあまり使用されません。多接点を求められる場合にもあまり使われません。一般的にはオルタネート動作となります。切り替え時に接点の状態がどのように遷移するかで「ショーティング」か「ノン・ショーティング」かの区別をする必要があります。

・ロータリースイッチ

中心軸の周りに接点を配置して軸を回して回路を切り替えるスイッチです。グルグル軸回すことからをロータリースイッチと呼びます。構造上、多接点、多回路を切り替えるスイッチを作り易く電子回路に使用されるスイッチとしては一般的ですが、あまり小型にはできないためポータブル機器での使用はあまり見ません。また高電圧、大電流の切り替えにも向いていません。

・マイクロスイッチ

ごく軽い操作圧で切り替えができるように工夫された小型のスイッチです。大きさの割には高い電圧や大きな電流を操作できます。やや高価ですが信頼性は高いものが普通です。一般的にはモーメンタリー動作が普通ですが、オルタネート動作のものもあります。

・ディップスイッチ

 ICを多用する時代になりスイッチも小型化が求められ、DIPDual Inline Package)のICとほとんど同じ大きさでプリント基板に実装できるものと言う要求にこたえる形で開発されたスイッチです。ロータリータイプのスイッチもあります。

普通は多回路2接点のブロック型をしています。オルタネート動作になります。

・半導体スイッチ

半導体の特質を生かして接点のないスイッチとしたものです。低電圧、小電流を操作して安全、確実に高電圧、大電流をONOFFすると言った用途に用いられますが、接点を持たない特質を生かして使用する場合もあります。

・強電用スイッチ

接点部分がナイフの刃の様な形状をしています。高電圧、大電流を取り扱うため歯の操作にスプリングを使って瞬間的に切り替えられるようにしたものや、電磁石を用いて人間が側に近づかなくてもいいように工夫したものもあります。おもちゃとは関係ありませんが高電圧、大電流を扱う強電の世界ではナイフスイッチ、スプリングスイッチなどを油漬けして使用することも有ります。

他にもいろいろありますが、あまりにも多いので省略します。

(2)スイッチの動作

 

・モーメンタリー/オルタネート

 

スイッチの動作に着目して見ると「ON」動作をした時だけ「ON」になる動作を「モーメンタリー」動作と言い、操作をするたびにスイッチの状態が入れ替わる動作を「オルタネート」動作と言います。

 

スイッチの種類ごとに決まっていますので適切なスイッチを選択してください。これを間違えると期待した通りの動作にならないので注意が必要です。

タクトスイッチはモーメンタリー動作の物しかありませんが、周辺回路に「自己保持回路」を組み込んであたかもオルタネート動作が出来るように見せかけているものもあります。

 

・ショーティング/ノン・ショーティング

 

スライドスイッチやロータリースイッチの場合、スイッチが切り替わるときの遷移状態に着目して見ると可動接点が2つの固定接点に跨って状態が切り替わっていく場合(右側)と、可動接点が固定接点を跨ぐことなく切り替わっていく場合(左側)が考えられます。

 

前者の場合が「ショーティング」動作、後者の場合が「ノン・ショーティング」動作と言う事になります。

 

「ショーティング」動作では、固定接点に接続されている二つの回路が一瞬とはいえショートされることになりますのでショートしても動作に問題がないのか、またショートされた状態、つまり本来の設計ではない値で次の回路に接続されることになりますので次の回路が異常なく動作できるのかどうかが問題になります。どちらを使用するかは回路設計者の判断になります。

 

「ノン・ショーティング」にも問題があります。ノン・ショーティング動作では、次段の入力が「0」になるわけではなく正確に言えば「何処にも繋がっていない、どのような値をとるのか分からない」状態を経て次の接点に接触する動作になりますので次段の動作が不安定になります。ですからそのような状態になっても次段の動作に影響がないように回路設計を行っておく必要があります。

 

ロータリースイッチがこの特性を持ちます。

 

(3)スイッチの修理について

 まず、スイッチ本体の内部を修理してはいけません。

 残念なことに我々が生存している地球はその大気の中に「酸素」を大量に含んでいます。酸素は「金」を除いて金属に対しては極めて有害です。金属が酸素に触れると酸化し「錆」が発生します。そして「錆」は絶縁体です。そのため、スイッチの接点は常に「錆」で覆われています。この問題を解決するためにスイッチの設計者は色々なことを考えスイッチの設計をしています。

 

(a)接点に金やロジウムなどの錆びない又は極めて錆び難い物質をそのまま或いはメッキして使う。でもこれらの金属は高価ですのでコスト的には不利ですが、接触の確保のために行われています。

 

(b)長い間錆びた状態で放っておく訳ではないので、錆びたとしても酸化膜は薄いので接点に圧力を加えて物理的に酸化膜を破壊し、良導体である金属同士を接触させます。

 

(c)接点が接触する直前は接点同士の距離がごく近いので、そこに電圧を加えるとスパークやアーク、プラズマが発生して絶縁破壊が起き、この力で接点の酸化膜を掃除して接点の錆を除去して良導体である金属同士の接触を確保します。

 

簡単に纏めれば大きくはこれら3つの手段を複合させて、接点の良好な接触を確保しています。

 スイッチの内部接点の修理では、基本的に汚れからの接点の清掃、錆の除去であり、このために鑢掛けや接点復活剤の使用を行うことになります。

 まず鑢欠けは折角、導通確保のために接点に施されたロジウム、銀、金等の高価な物質の極めて薄い膜を削り取ってしまいます。そして以前より錆びやすい状態を作り出してしまい、結果として次の故障を誘発することになります。さらに柔らかい布等で拭う程度は許せますが、鑢などでごしごしこすれば金属の表面があれた状態になり更に酸化しやすくなります。また面と面で接触させて接触抵抗を低く保ちたいのに荒れた表面では点と点の接触になってしまい接触抵抗が高くなります。接触抵抗が高くなれば通過電力によって熱が発生し更に酸化を進め錆の発生を助長する事にもなります。ですから代替品が入手できないものの、一時的に使えるようにしたい場合以外はスイッチの内部に触れることは止めてください。

 次に接点復活剤は基本的に有機溶剤で接点のごみ、汚れを取り除こうと言うもので酸化膜の除去には全く効果がありません。さらにこの有機溶剤が新たなごみや汚れを吸い付けて接点を汚い状態にしてしまいます。特に沢山使えばよく落ちるだろうという考えでかけすぎになり、更にごみを吸いつけると言う悪循環を招来してしまいがちです。どうしても接点復活剤を使いたいときは綿棒に少量吹きかけて、露出している接点を軽く拭う程度にして下さい。接点復活剤は百害あって一利なしです。

 

似たようなものとしてCRC556などを流用する方が偶にいますが、油は絶縁物です。接点復活剤よりもさらに悪い影響を及ぼしますので絶対に使用しないで下さい。

 

 

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